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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)391号 判決

控訴人(被告) 熊本県知事

補助参加人 本山庄三郎 外二名

被控訴人(原告) 牛深市

補助参加人 魚貫炭礦株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴申立後の訴訟費用中、控訴人の補助参加人等の参加に因り生じた訴訟費用は、同参加人等の負担とし、その余の訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴代理人は「主文と同旨」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および認否は、控訴代理人において(一)被控訴人は、本件埋立地のうち、原判決別紙第二目録記載の埋立地については、被控訴人の前主魚貫村において訴外土切嶺太郎の有する埋立権を継承してこれを埋立て、また同第一目録記載の埋立地については訴外日本煉炭株式会社において訴外加賀精一郎の有する埋立権を継承し、県知事に対する追認願もしくは継承出願をして免許を得た上埋立を完了した旨主張するが、控訴人が、本件埋立竣功認可処分をなすに当つて調査したところによつても、さような事実は認められず、殊に被控訴人の主張する右埋立継承当時の法令によれば、埋立権の譲渡については、行政官庁の許可を要するに拘らず、魚貫村および日本煉炭株式会社が右埋立権を継承するについて許可を得た事実を証すべき許可書その他なんらの資料は存しない。尤も、被控訴人は本件埋立地を前主以来永年に亘つて占有支配してきた旨主張するが、控訴人としては、公有水面埋立法の解釈として埋立権(公有水面埋立につき行政官庁の免許乃至許可を受けたこと)を有しない者がたとい現実に埋立をなし、当該埋立地を事実上占有支配していたとしても、同法に基きいわゆる無願埋立地として追認等所定の手続をとらない限りその占有は不法占有といわざるをえず、当該埋立地につきなんらの権利を取得しえないことはいうまでもない。(二)本件訴訟においては、本山庄三郎の有する埋立権の目的たる埋立免許区域中に本件埋立地を包含するものかどうかが争点となつており控訴人が右本山に対し、本件埋立竣功認可を与えるにあたつても、この点を十分調査している。すなわち、控訴人は、昭和二〇年七月一日熊本県庁庁舎が空襲に因り焼失し、本件埋立地に関する一切の書類を焼失するに至つたため、申請人たる本山庄三郎および地元魚貫村役場に保存されていた関係書類によりこの点の判定をなさざるを得なかつたのであるが、乙第三号証の二の埋立免許命令書に記載された免許区域と同第四号証の免許面積二七町七反二畝二七歩は甲第一二号証の浦越地区実測平面図等による実測面積にほぼ一致するので、本件係争の埋立地が本山庄三郎の有する右埋立免許区域に包含するものであることが窺えるのみならず乙第二二号証の(一)に添付された熊本県技師黒田竹生の作成に係る図面は現地の本渡土木管区事務所に保管されていたため戦災を免れたものであり、同図面も控訴人の右主張を裏付けるに足る資料というに妨げない。そして海面埋立竣功認可の申請は埋立の免許を受けた者又はこれより許可を得て埋立権の譲渡を受けた者のみがなし得るところであり、竣功免許の主管官庁である都道府県知事は、埋立の状態が免許条件およびその計画に適合しているか否かを調査し、これを肯定し得る場合には必ず認可を与えなければならないのであつてその間に自由裁量は許されないからこの意味において埋立竣功認可行為はいわゆる確認行為に属するものというべきである。したがつて、知事は当該埋立地の埋立を現実に実施した当事者が誰であるかを調査しその実体関係にまで立入つて審査すべき義務もないし、また権利も有していない。埋立の竣功認可は埋立につき免許を受けた者が現実に埋立をなしたことを前提としてこれに対し与えられるものではないのである。本件についていえば控訴人は調査の結果本件埋立地が本山庄三郎の埋立免許区域内に属するものと認められかつ、その埋立の一部竣功が免許条件に適合するものと認められたので、これにつき認可を与えざるを得なかつたのであり、仮りに右本山において、現実に埋立を実施せず訴外日本煉炭株式会社又は被控訴人の前主魚貫村において、費用と労力を投じて埋立を実施したとしてもその間の調整は当事者間において解決すべき事柄に属し控訴人のなすべき右竣功認可処分にはかかわりのないことである。原審における控訴人の補助参加人大塚幸三は昭和三四年三月二八日死亡し、大塚久枝、大塚正則がその相続をして本件訴訟に因る法律関係を承継した、と述べ、(証拠省略)控訴人の補助参加人本山庄三郎の訴訟代理人において、本件において訴外日本煉炭株式会社又は、魚貫村がそれぞれ原判決別紙第一、第二目録記載の埋立地について埋立免許乃至許可および竣功認可を受けた事実を認むべき資料は何もなく、埋立免許の範囲、条件、年月日等についての確たる主張も存しないのであるから、いずれにしても、訴外会社又は魚貫村は右埋立地の所有権を取得するに由なきものである。このことは、公有水面埋立法第二二条第一四条に徴してきわめて明白であり、訴外会社および魚貫村が仮りにこれを埋立てたとしても、たかだか将来右埋立地につき埋立の追認を得べき期待権を有するに過ぎないものである。したがつて本件埋立地につき訴外会社および魚貫村の承継人であると主張する被控訴人において本件埋立竣功認可処分の無効確認を求めるにつき訴の利益があるものとはいえず、本訴は訴の要件を欠くものである。尤も、被控訴人は右埋立地につき占有権を有する旨主張するけれども本件竣功認可処分によつては、右占有権に何等侵害を与えるものではないから、被控訴人が本訴につき訴の利益を欠ぐことに変りはないであろう。と述べ、(証拠省略)被控訴代理人において、当審における控訴人のあらたな主張に対し、被控訴人の前主魚貫村が訴外土切嶺太郎から原判決別紙第二目録記載の埋立地の、また訴外日本煉炭株式会社が訴外加賀精一郎から、同第一目録記載の埋立地の各出願名義をそれぞれ適法に承継し、埋立免許を得て埋立を完了した事実は、甲第一、二号証の記載と魚貫村乃至被控訴人が永年に亘り右土地を占有支配し来つた事実に徴して推定し得るところである。控訴人は本件埋立地は、本山庄三郎が埋立権を譲り受けた浦越湾埋立免許区域中に包含するものと主張し、その根拠をるる説明するが、乙第三号証の二同第四号証の図面が存するなら兎も角、控訴人の論拠とするところは、いずれも納得できない。むしろ被控訴人提出援用の各証拠と被控訴人およびその前主の右占有事実乃至埋立の実施が土切嶺太郎、加賀精一郎、日本煉炭株式会社、魚貫村等によつてなされた事実を綜合すれば、本山庄三郎の右埋立免許地域は、本件埋立地の地先であるとみるのが至当である。さらに海面埋立の竣功認可にあたり、埋立地が免許条件および計画に適合するか否かを審査する要があるのは当然であるが、控訴人は、本山庄三郎の前主である訴外本山岩造外一名に与えられた当初の埋立免許地域を充分調査せず、申請人である本山庄三郎が作成した図面に控訴人の部下職員が協力助勢し、勝手に免許地域を作出して本件竣功認可を与えているのであるから、右認可処分には重大かつ明白なかしがある。と述べ、控訴人の補助参加人本山の本案前の抗弁に対し、本件埋立地については、従来主張した如く被控訴人の前主魚貫村および訴外日本煉炭株式会社において自己の有する埋立権に基いて埋立を実施し、竣功認可を得てその後被控訴人が所有権を取得したものであり、仮りに右竣功認可の事実がなかつたとしても、右埋立地は無免許による埋立ではなく、唯、埋立免許書乃至許可書が空襲等に因り焼失又は紛失したまでであつて、被控訴人乃至その前主たる魚貫村は永くこれを村有地として占有支配していたのであつて右占有をもつて不法占有ということはできない。被控訴人および訴外日本煉炭株式会社としては、本件埋立地に関する竣功認可等の関係文書一切が焼失乃至紛失した現在これについて再度竣功認可申請をすることをも考慮せざるを得ない実情であり、他面本件の如く公物たる公有水面が埋立によつて不動産化し、占有支配の対象物となつた場合には、当該公物は既に公物たる性格を喪失し、時効取得の対象たり得るものと解すべきである。しかりとすれば、本件埋立地については、昭和一六年六月一五日以降一〇年間自己の所有としてこれを占有支配した魚貫村に取得時効が完成しているから、合併に因り同村の権利義務一切を承継した被控訴人は、右埋立地の所有権を取得した筋合である。よつて、いずれの点よりするも、被控訴人は本訴を提起するにつき訴の利益を有することは明らかである。原審における控訴人の補助参加人大塚幸三が控訴人主張日時に死亡し、大塚久枝および大塚正則の両名がその相続をなして本件訴訟に因る法律関係を承継したことは認める。と述べ、(証拠省略)被控訴人の補助参加人の訴訟代理人は、原審における控訴人の補助参加人大塚幸三が控訴人主張日時に死亡し、大塚久枝、大塚正則の両名がその相続をして本件訴訟に因る法律関係を承継したことは認めると述べた(証拠省略)ほかは原判決事実に摘示したところと同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所の判断は、原判決八枚目裏五行目「継承のうえ」および同九行目「継承して」の次にそれぞれ「その頃同知事の許可を受けて」を挿入し、その事実認定資料に成立に争のない丁第一二号証の記載当審証人平田宗男、同夏初雄、同福本一二、同中原米蔵、同藤井雄之助、同北野寿之の各証言並に当審における検証の結果を加え次の判断を付加するほかは原判決理由の説示判断と同一であるからこれを引用する。当審証人児玉芳夫、同本山朝彦、同里崎三代、同林田孔生、同八尋忠蔵、同川原シユン、同城下猛、同本山和気麿、同本山伊作の各証言並に当審における控訴人の補助参加人本山庄三郎本人尋問の結果中、右引用に係る事実認定に反する部分は信用し難く、当審における鑑定人池浦正の鑑定結果および当審において控訴人の指摘する乙第二二号証の一の付属図面によるも右認定を覆すことはできないし、他に右認定を左右し得る確証は存しない。(甲第一号証の地番並に面積は原判決第二目録記載の埋立地のそれとは一致しないが、右引用の事実認定資料に供せられた他の証拠と対比し、地番のそれは誤記であり、また面積は埋立予定面積を示すものと認むべきである)

よつて、先ず控訴人の補助参加人本山庄三郎の本案前の抗弁について検討するに、右引用に係る事実並に後記認定事実に徴すれば、被控訴人の前主魚貫村は、原判決別紙第二目録記載の埋立地につき控訴人熊本県知事の許可を受けた埋立権に基いて埋立を実施したものであり、また、同第一目録記載の埋立地については、これが埋立につき同知事の許可を受け埋立を実施した訴外日本煉炭株式会社から右埋立地に関する権利を承継したものと認むべきである。尤も、成立に争のない甲第三八及び第三九号証により認められるとおり昭和二〇年七月一日の空襲により熊本県庁が焼失し、本件公有水面埋立に関する書類一切が焼失したため、前記各埋立許可の正確な日時及び埋立区域を除くその他の許可条件はこれを証明することができない。ところで、公有水面の埋立につき都道府県知事の許可乃至免許を受けた埋立権利者は、一定の公有水面の埋立を排他的に行い、土地の造成を行うと共に竣功認可を条件として埋立地の所有権を取得すべき地位にあり、かつ、竣功認可前と雖も造成された埋立地につきこれを支配する権利をも取得すべきものとされているのであつて当事者間の契約により埋立権利者から埋立完成後に埋立地に関する権利を承継し現にこれを支配する者は、埋立権利者が埋立竣功認可により所有権を取得することを条件として当該埋立地の所有権を承継取得し得べき地位にあるものと解すべきであるから、本件埋立地につき合併によつて魚貫村から右の権利義務を承継した被控訴人において右埋立地を対象としてなされた本件竣功認可処分の無効確認を訴求するにつき法律上の利益を有することは明らかであつて控訴人の補助参加人本山の抗弁は理由がない。控訴人は、魚貫村及び日本煉炭株式会社はそれぞれ前主から埋立権を継承するにつき適法な許可乃至認可を得ていないから無効である。と主張するけれども原判決の認定する如く、魚貫村および日本煉炭株式会社は埋立権の譲渡を受けたものではなく、単なる出願名義の変更があつたものと認むべきであるから控訴人の主張は理由がない。

次に都道府県知事のなす公有水面埋立の竣功認可は、埋立に関する工事およびその完成の状態が埋立免許(旧法においては許可)並にこれに附した条件に定める埋立およびその工事に適合することを認定する一種の確認行為であるから、とくに申請区域が当初の埋立免許区域に該当するか否かは、先ず審査確定を要すべき重要な事柄であり、本件竣功認可処分においても控訴人のなしたこの点の審査が争点となつたのであるが、本件においては、原判決に認定する如く、申請人本山庄三郎の有する埋立免許面積が広大であるばかりでなく、埋立免許後工事竣功までに長年月を経過し、かつ控訴人において保存してある筈の右埋立に関する出願免許関係書類が戦災に因り焼失し、本山の提出した右竣功認可申請書に添附の図面が当初の埋立免許書に添附された図面と同一内容であるかどうかが明らかでなかつたというのであるから、かかる場合には、原判決の説示するとおりむしろ地元魚貫村役場に備え付けてあつた関係書類を調査し、本件埋立地の占有支配の移転状況および埋立免許当時の現地の状況や、現実の埋立工事施行者等の調査に重点をおくのが当然である。

しかるに原判決の認定資料に供せられた各証拠に成立に争のない乙第二三号証丁第一二号証の各記載に当審証人平田宗男、同夏初雄、同福本一二、同中原米蔵、同藤木雄之助、同北野寿之の各証言原審並に当審証人児玉芳夫の各証言(但し一部)に当審における検証の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、本件埋立地のうち、原判決別紙第一目録記載の埋立地については、埋立権者である訴外日本煉炭株式会社においてこれを埋立て、また、同第二目録記載の埋立地については、埋立権者たる魚貫村において埋立を実施し、大正一五年二月一〇日控訴人が本山庄三郎の前主である本山岩造外一名に対し、主張の埋立免許を与える以前、既に事実上各埋立は完成しており、同第一目録記載の埋立地はその後一時魚貫村において訴外会社より保管を委託せられた後、昭和六年六月頃寄附の形式で右埋立地に関する権利を同社より承継し、同第二目録記載の埋立地と共にこれを占有支配して一部は事実上他に売却し、残る部分も相当部分は他に賃貸して使用せしめていること、控訴人は本山庄三郎に対する本件埋立竣功認可に先立ち既に昭和一八年六月一七日熊本県指令土第四三七号をもつて同人に対し、控訴人の主張する本山の埋立免許区域のうち、浦越湾内ではあるが、本件埋立地とはその場所を異にする字瀬戸平地区地先海面三、一三二坪一合について一部竣功認可を与えた経緯がある為、右本山の申請に係る本件埋立竣功認可申請の当否を決するため調査に当つた控訴人の部下職員は、原判決認定の如く、本件埋立地も本山の有する埋立免許地域の一部に該当し、かつ同人が現実に埋立を施行完成したことを既定の事実として埋立地の位置、埋立面積その他埋立の進捗状況について申請人である本山庄三郎の説明のみに基いて形式的な調査をなすに止め、その当時地元魚貫村に備え付けられた関係書類や真実の埋立工事実施者、埋立地の占有支配状況埋立免許当時の現地の状況等の調査をすれば本件埋立地が前記の如く本山の免許地域でなくしたがつて同人の埋立てたものでないことを明らかになしえたに拘らず、これをしないまま本件埋立竣功認可をなしたものであることをそれぞれ首肯することができる。当審証人本山朝彦、同里崎三代、同林田孔生、同八尋忠蔵、同川原シユン、同城下猛、同本山和気麿、同本山伊作原審並に当審証人児玉芳夫の各証言および当審における控訴人の補助参加人本山庄三郎本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を左右し得る確証はない。

よつて、当裁判所は、控訴人が本山庄三郎に対してなした本件埋立竣功認可処分には、同人の申請に係る埋立区域が果して当初の埋立免許地域に該当するか否かを審査するにつき原判決に認定する如く重大かつ明白なかしがあり、右処分は無効であると判断するのでその無効確認を求める被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく棄却を免れない。よつて当審の訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九五条本文第九四条第九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 高次三吉 木本楢雄 松田富士也)

原審判決の主文、事実および理由

主文

被告が昭和二十六年二月二十日別紙第一、二目録記載の土地につき、被告補助参加人本山庄三郎に対してした公有水面埋立一部竣功認可の無効であることを確認する。

被告補助参加人らの参加によつて生じた訴訟費用は、被告補助参加人らの負担とし、その余の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨とその答弁

原告訴訟代理人は主文第一項と同旨および訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求めた。

二、請求の原因

(一) 被告補助参加人本山庄三郎は別紙第一、二目録記載の本件埋立地につき、昭和二十四年十一月十二日被告県知事に対し公有水面埋立一部竣功認可を申請し、被告県知事はこれに対して昭和二十六年二月二十日一部竣功認可を与えたものであるが、本件埋立地は後に述べるとおり原告の前主が被告県知事の免許を得て埋立てたうえ、その竣功認可をうけた土地であるから本山に対する右認可は二重認可として違法であるが仮に然らずとしても右埋立地につき全く無関係にしてなんらの権利も有しない本山に対して与えられた本件一部竣功認可処分は実体上の権利関係に副わないという点で違法があり、その瑕疵が重大かつ明白であるから無効である。

(二) すなわち、本件埋立地のうち別紙第二目録記載の土地は、明治三十九年訴外土切嶺太郎が被告県知事に対し公有海面埋立出願をしていたが、大正五年六月五日天草郡魚貫村において継承出願し免許をうけてこれを埋立て、被告県知事の竣功認可を得てその所有権を取得したものであり、また別紙第一目録記載の土地は大正元年訴外加賀精一郎が被告県知事に対し公有海面埋立出願のうえ埋立または埋立中であつたところ、大正二年十一月十九日訴外日本煉炭株式会社においてこれを継承し、被告県知事に対して追認願もしくは継承出願をし免許をうけて埋立を完了しかつ県知事の竣功認可を得てその所有権を取得したが、同社は大正十二年十月二十一日右埋立地の保管を魚貫村に委託し、ついで昭和六年六月十五日右埋立地を魚貫村字柳口二千九百七十七番地宅地三百八十二坪ほか七筆と共に魚貫村に贈与した。よつて別紙第一、二目録記載の本件埋立地はすべて同村の所有に帰し、同村は昭和二十九年七月一日同村ほか一町三村と合併して原告牛深市となり、原告は同村の地位を承継して本件埋立地の所有権を取得するに至つた。

(三) これより前、魚貫村は本件埋立地の一部を昭和六年四月訴外中原与平ほか十六名に、昭和十年十二月二十八日訴外浜崎信義に、昭和十六年十二月二十九日原告補助参加人魚貫炭礦株式会社にそれぞれ貸与し、同社は昭和二十三年六月十一日その借地の一部を魚貫村の同意を得て国立病院に転貸し、その後同村は右転借地の賃貸借契約を解除したうえ改めて右土地を産業復興公団に貸与したが、本件埋立地はいずれも魚貫村が前記のように所有権を取得して以来、永年にわたり占有支配して来たものであつて同村の地位を前記のように承継した原告は本件埋立地の占有をも承継したものである。

(四) ところが、前記本山庄三郎は個人の資格でかねて本件埋立地の地先附近の公有海面につきこれが埋立出願をしていたものとみえ、被告県知事に対し昭和二十四年十一月十二日前記公有水面埋立一部竣功の認可申請をしたが、その際不法にも本件埋立地を自己の埋立出願地として右申請に及んだところ、被告県知事は軽卒にこれを信じて本山庄三郎に対し昭和二十六年二月二十日本件一部竣功認可をしたものである。

(五)しかしながら前記のように本件埋立地は、原告が魚貫村より承継取得した所有地である。そして本山庄三郎はかつて魚貫村長として本件埋立地が魚貫村有であつたことを知悉しながら、まだ同村名義の所有権の保存登記がないのを奇貨として被告県知事に対し、かねて公有水面埋立出願をしていたところから本件埋立地を埋立てたもののように装い前記一部竣功認可申請をしたのであるが、右認可申請地域である本件埋立地は当時既に魚貫村または日本煉炭株式会社の埋立が完了し炭礦住宅が建ち貯木場が設けられ畑地に利用されていて魚貫村の占有支配下にあり、本山庄三郎があらたに埋立竣功した土地でないことが一見して明瞭であるにもかかわらず、被告県知事は軽卒にも本山庄三郎の右竣功認可申請を信じその埋立出願地域を適確に調査することなく、既に魚貫村または日本煉炭株式会社に竣功認可を与えた本件埋立地につき、重ねて竣功認可したもので、本件認可処分は二重認可の違法な処分であり無効である。

(六) 仮りに魚貫村および日本煉炭株式会社が県知事より本件埋立地の竣功認可を得ていないとしても、本件竣功認可は本件埋立地の継承出願者でありかつ埋立工事を実際施行完了した魚貫村および右会社に与えられるべきであるにもかかわらず、前記のように本山庄三郎の認可申請に対し実体上の権利関係を審査せず、かつ本件埋立工事になんら関与していない本山庄三郎個人に対し与えられたものであるから、本件認可処分はこの点よりするも違法たるを免れず、いずれにしてもその処分に重大かつ明白な瑕疵があり、無効なものといわねばならない。

よつてその無効確認を求めるため本訴に及ぶ。

三、請求原因に対する被告の答弁

(一) 原告の主張事実中、被告補助参加人本山庄三郎が昭和二十四年十一月十二日被告県知事に対して別紙第一、二目録記載の本件埋立地につき公有水面埋立一部竣功認可の申請をし、昭和二十六年二月二十日これが認可を得たことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) すなわち、本件埋立地については原告の前主はいずれも竣功認可をうけず、原告はその所有権を取得していないから本件竣功認可は二重認可ではなく、また本件竣功認可にはなんら無効事由は存在しない。本件認可に至る経緯は次のとおりである。

本件埋立地は大正十二年三月二十五日訴外本山岩造、同手代木隆吉の両名より熊本県知事に対しなされた天草郡魚貫村字城の坂、前平、中の須、サブロ、浦越、瀬白、臼の迫、本丸、入鹿迫、入鹿淵、ウクベ、楠の迫、水の浦、瀬戸平をもつて囲まれた浦越湾内海面二十三町九反八畝二歩の公有水面埋立申請地域の一部であつて、右申請に対し県知事は大正十五年二月十日熊本県指令土第八三六号をもつて条件付免許を与えたものであるが、その後右岩造の埋立権を本山和気麿が相続し、ついで昭和十二年六月十五日同人および前記手代木のほかに訴外邦永昌雄が右埋立に参加し、三回にわたり埋立工事期間延長の許可を得たうえ、昭和十八年一月十二日右本山和気麿らはその埋立権を本山庄三郎に譲渡し、同日熊本県指令土第四〇八号をもつてその旨の許可を得た。

(三) そして右本山庄三郎は前記申請地域の一部八十坪一合を道路敷地として竣功し、昭和十八年六月十七日熊本県指令土第四三七号をもつてこれが認可をうけ、その余は爾後数回にわたり埋立工事期間伸長の許可を得た後、昭和二十四年十一月十二日一部竣功認可申請をした。そこで被告県知事は本件埋立に関する本山庄三郎の所持していた県知事発行の指令書類等関係書類によりその真否を確かめ、必要に応じ再三魚貫村役場において実情を調べ、また実地につき踏査しあらゆる手段をつくして慎重に調査のうえ、本山庄三郎に対し昭和二十六年二月二十日熊本県指令河第一四号をもつて本件竣功認可を与えるに至つたものである。

(四) 以上のように被告が本山庄三郎に対してした本件竣功認可は適式の申請に基き、法定の手続を履践して適法になされたものであるから、二重認可でないのはもちろん、手続上なんらの瑕疵もない。仮りに右認可当時本件埋立地に対する真実の権利者が原告の前主たる魚貫村であつたとしても、右認可に際し被告において調査した資料によれば、本山庄三郎を権利者と認めざるを得なかつたものであり、かつ埋立完成状態も埋立免許に附した工事計画に適合していたので覊束処分たる竣功認可の性質上、被告としては当然同人に認可を与えるべきであつたから、その結果魚貫村、ひいては原告の権利が害されたとしても、右の瑕疵は本件認可を無効とする程に重大かつ明白なものではなく、単に取消原因となるにすぎないところ、原告はこれが取消を求めることなく法定の期間を徒過したから、本件認可は有効である。

よつて、いずれにしても本件認可が無効であるとする原告の主張は失当であるから、本件請求に応じ難い。

四、証拠関係〈省略〉

理由

被告補助参加人本山庄三郎が被告県知事に対して昭和二十四年十一月十二日別紙第一、二目録記載の本件埋立地につき、公有水面埋立一部竣功認可の申請をし、昭和二十六年二月二十日これが認可をうけたことは当事者間に争がない。

原告は、被告が本山庄三郎に対してした本件竣功認可処分には二重認可の違法または実体的審査をしないで本件埋立になんら関与しない者に認可した違法があり、その違法の瑕疵が重大かつ明白であるから、本件竣功認可処分は無効である旨主張するのに対し、被告はこれを争うので以下、判断することとする。まず二重認可の点について考えるに、成立に争のない甲第一ないし三号証、第二十号証、第二十一号証、第三十二号証の一、証人山野継治の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証の一ないし二十四、証人福本長次郎、同福本一二、同寺川正雄、同山野継治、同夏初雄、同北野寿之および同藤井雄之助の各証言ならびに検証の結果を綜合すると、本件埋立地のうち別紙第二目録記載の埋立地については、明治三十九年頃訴外土切嶺太郎が熊本県知事に対し公有水面埋立の出願をして埋立中であつたが、大正五年六月五日原告の前主魚貫村において継承のうえこれを埋立てたこと、および別紙第一目録記載の埋立地については大正元年頃訴外加賀精一郎が熊本県知事に対して公有水面埋立の出願をしていたところ、大正二年十一月十九日訴外日本煉炭株式会社においてこれを継承して埋立てたが、その後魚貫村は同社より右埋立地の権利を承継したこと、そして同村は昭和二十九年七月一日同村ほか一町三村と合併して原告牛深市となり、原告は魚貫村の地位を承継して別紙第一、二目録記載の本件埋立地を占有支配するに至つたこと(尤も右埋立地の一部は合併前魚貫村が他に売却処分していたことは後記のとおり)を認めることができるけれども、原告主張のように別紙第一目録記載の埋立地について訴外日本煉炭株式会社が、同第二目録記載の埋立地について魚貫村が、いずれも県知事の埋立竣功認可を得た事実については、原告提出の証拠だけではこれを認めることができないし、それ以外にこれを認めるに足る証拠はない。そうだとすれば、右の竣功認可を前提として前記本山庄三郎に対する本件一部竣功認可が二重認可であるとする原告の主張は、理由を欠くから排斥を免れない。

つぎに、本件認可処分は実体上の権利関係を審査せず本件埋立になんら関与しない本山庄三郎に対しなされたものであるから無効であるとの原告主張に付き考えてみる。

成立に争のない乙第一号証、公文書であるから真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、二、第四号証、証人坂井秀雄、同池田謹治、同小山誠、同村田義信の各証言によれば、前記本山庄三郎が前主より埋立権の譲渡をうけていた地域は、天草郡魚貫村字城の坂、前平、中の須、サブロ、浦越、瀬白、臼の迫、本丸、入鹿迫、入鹿淵、ウクベ、楠の迫、水の浦、瀬戸平をもつて囲まれた浦越湾内海面二十七町七反二畝二十七歩であつたところ、本山は本件埋立地を含む五千二十九坪の地域につき、右埋立地が自己の免許を得ている前記海面二十七町七反二畝二十七歩の一部であるとして被告県知事に対して本件竣功認可の申請があつたのであるが、右埋立面積が非常に広大であるのみならず埋立免許をうけてから工事竣功までに長期間を経過しており、また被告において保存すべき右埋立に関する出願、免許に関する書類が戦災により消失し、かつ右認可申請書に添付してあつた図面が埋立出願、免許の際に添付された図面と同一内容のものであるかどうかが明白でなかつたことから、被告県知事は右竣功認可の当否を決するために係員に調査させたが、右調査に当つた係員は本件埋立地が本山の有する免許地域の一部に該当しかつ同人が現実に埋立工事を施行完成したことを既定の事実として埋立地の位置、埋立面積その他の埋立進捗状況について申請人である本山庄三郎の説明のみに基いて調査した上、申請書添付図面に不備な点を発見するや本山に助言して図面を補正させるなど本山が認可を得られるよう県係官が自ら本山に協力した事実が認められるので本件認可処分に関与した係員らの前記調査からは本山が現実に本件埋立工事を施行したとの結論を導くことは到底できない。もつとも、本件埋立地の埋立について乙第二十二号証の一、証人本山義治、同堀七蔵、同長畑コギク、同本山庄三郎の各証言中には、本件埋立地が本山庄三郎において埋立てたものであるとの被告の主張に添う部分があるけれども、右乙第二十二号証の一は魚貫村字瀬戸平、戸崎地先海面の外堤および水門工事に関するもので本件埋立地には直接の関係がなく、また右各証言は、証人福本長次郎、同福本一二、同寺川正雄、同夏初雄の各証言と対比し信用し難く他に本件埋立地を本山庄三郎が埋立てたと認めるに足る証拠がないばかりか却て右夏証人および寺川証人の証言によれば本山が埋立権の譲渡を受けていた埋立免許地域は本件埋立地の各地先海面で本件埋立地とは全く別地域であることが窺知できる。従つて本件埋立地は本山庄三郎において埋立てたものではなくて、冒頭説示のとおり本件埋立地のうち別紙第一目録記載の埋立地は訴外日本煉炭株式会社が、同第二目録記載の埋立地は魚貫村が埋立てたものと認定するのが相当である。尤も成立に争のない甲第二十八ないし三十一号証によれば、昭和十五年五月、当時魚貫村会議員であつた本山庄三郎は原告の前主である魚貫村が本件埋立地の一部を同村の浜口広治外三名に売却処分するについて同意のための署名押印をしていないけれども、これは証人赤崎長重の証言によれば、当時本山庄三郎が出張不在のため同村議会に出席していなかつたためで、同人が右埋立地を同人の所有地であると主張して同村の右売却に反対したためではなかつたことがうかがわれ、成立に争のない甲第九号証の一、二、第十号証の一、二および証人藤井雄之助の証言によれば、本山庄三郎はその後の昭和二十三年六月頃本件埋立地の内同村字中の須所在の埋立地五百二十坪余を原告補助参加人魚貫炭礦株式会社が国立病院に転貸するについて魚貫村村長として承諾し、さらに同村が本件埋立地中同字所在の埋立地を訴外産業復興公団に貸付けるについて昭和二十五年中に二回にわたりいずれも村長として貸借契約を結んだことが認められ、これらの事実だけからみても本件埋立地は本山庄三郎個人において埋立てたものでもないしまた占有支配していたものでもないことが明かである。

以上認定した各事実に弁論の全趣旨を綜合すれば、本山庄三郎は同人の埋立免許に関する被告県知事の保存すべき書類が戦災により消失したのを奇貨として、あたかも本件竣功認可申請に及んだ地域が同人の前主において県知事の埋立免許をうけた地域であり、かつ同人が現実に埋立てたものであるかのように装つて同申請書にそのような図面を添付し、よつて同人が本件埋立地の埋立権を有し、かつこれを埋立てたものとして本件竣功認可の申請をし、また被告県知事もこれが審査を十分につくさず、本件竣功認可をしたものと推認される。

被告は仮に本山が本件埋立地の実質上の権利者でなかつたとしても既存の関係書類並に実地調査の結果同人を権利者と認める以外に方法がなかつたので本件認可には処分自体を無効にするほどの重大明白な瑕疵はないと抗争するが前段説示のとおり被告の係官が本件埋立地の実地調査をするに当つては本山が埋立てたことを既定の事実として全く形式的な審査に止めたことが認められ若し被告が当時魚貫村に備付けていた関係書類(原告が本件の証拠として提出した書証)を調査したり、または本件埋立地に居住している住民に付き同埋立地の占有支配の移転状況等を調査するに於ては容易に本件土地が本山により埋立てられたものでないことを明かにし得たに拘らず、それをなさずしてなされた本件認可処分に重大かつ明白な瑕疵のあることは勿論である。

よつて本件認可処分が無効であることは明かであるからその無効確認を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条第九十四条を適用して主文のとおり判決する。

(昭和三六年四月二五日熊本地方裁判所判決)

別紙

第一目録

(1) 熊本県天草郡魚貫村字中の須二、一一九番地先

(2) 同所二、一二〇番の二地先

(3) 同所二、一二九番地先

(4) 同村字サブロ二、八九九番地先

(5) 同所二、九〇三番地先

(6) 同所二、九〇一番地先

(7) 同村字又二、九〇二番の一地先

以上総面積三、八一四坪(内道路敷七四坪)

第二目録

(1) 熊本県天草郡魚貫村字水浦三、二七一番地先

(2) 同所三、二七二番地先

以上総面積二一一坪(内道路敷一〇坪)

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